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Allez, Eddy! 行け、エディ!

ベルギー映画 (2012)

時代は、1975年。今から半世紀近く前。ベルギーのフラマン(オランダ)語圏の田舎町の一軒しかない肉屋の息子フレディは、ツール・ド・フランスの歴史の中でフランダース地域出身のロードレース選手として最も偉大なエディ・メルクスに憧れている。しかし、彼には便失禁の持病があり、無神経節症と誤診されたため、外出を禁じられ、屋根裏の天井の梁から2本のロープで宙吊りにした自転車で猛練習をする。外を走ることはできず、友達もできなかったが、毎晩、自転車を漕ぎ続ける。そんなフレディの住んでいる田舎町の近くに、近郷の集客を狙ったスーパーマーケットが開業し、4代続いた肉屋は危機に陥る。映画は、スーパーに対抗しようと意固地になる父と、スーパーに興味を持ち、結局は、内緒で、開業記念行事の子供の自転車レースに出場するフレディの確執を中心に、当時の時代背景を ある意味ユーモラスに描いている。考えてみれば、現代の日本では、個性的なパン屋や、老舗の和菓子屋、味が勝負のデザート店、伝統的なアーケード商店街を除けば、個人経営の商店はめっきり減ってしまい、買い物はスーパーや、ホームセンター、家電店、デパートなどに限定されるようになってしまった。でも、昔は、個人の商店と、デパートしかなかった。この大変革で、どれだけ多くの商店が倒産の危機に苦しんだかには、全く気付いていなかった。こうした社会問題と、障害に苦しみつつ自転車にがんばり続けるフレディの合体は、子供向きの映画とはいえ、映画に活力を与えている。観て気に入った一本〔このサイトでは、やり始めて嫌いになった作品も紹介している〕

フレディ役は、イェルト・ブロマールト(Jelte Blommaert)。1999年12月2日生まれ。初公開が2012年3月なので、2011年夏の撮影とすれば撮影時11歳。映画には、これが初出演で主演。その後は、映画の端役1回と、TVドラマへの僅かな出演があるのみで、4年後の2016年には映画界を去っている〔おそらく、学業に専念している〕

あらすじ

1。映画は、フレディが天地創造を叙述するところから始まる。「はじめに神は天と地とを創造された。動物と植物も」(最初の文章は、『創世記』の1.1。その先、急に、1.24と1.9の動物と植物に言及。「5日間で」(1.23、表現が違う)。ここからは、フレディの創作。「神が創造されたものは、すべて完璧だった。でも、ママは、6日目に神は間違い犯されたと言ってる。人を創造されたからだ〔『創世記』1.27の記述は、単に、「神は自分のかたちに人を創造された…」だけ〕。ここで、場面は少し過去の現実に戻り、トウモロコシ畑の中でフレディは他の少年に追いかけられている。「皆(みんな)、見てたぞ。お漏らしパンツ!」。「うんち野郎!」。「臭うぞ!」。「そして、神は自らが創造した欠陥のある人々を助けるため、医者を創造された。その医者は、僕の頭とお尻の間に配線がないと言った」(1枚目の写真)「2つが結ばれていないから、僕はパンツを汚し続けるんだ〔無神経節症による便失禁〕。でも、神は医者に言うのを忘れてしまった… どうやったら欠陥を正常に戻せるかを。だから、僕は、天から処方箋が送られてくるのを待つしかない。それまでは、僕一人で出かけないのがベスト。なぜかって、ロクなことが起きないから」。そして、バスタブに入っているフレディに映像が変わると、第62回ツール・ド・フランス(1975年6月26日~7月20日)の出発点 ベルギー南部フランス語圏のシャルルロワから、スタート間近の様子を中継していいるラジオの音声に変わる。そこでの唯一の話題は、ベルギー中部フラマン語圏出身のロードレース選手エディ・メルクス(Eddy Merckx)〔1974年までに5回優勝〕が、今回、6回目の優勝をベルギーにもたらすかがどうかだ。次は、フレディがバスタブから出てパンツを3枚履き、その上から、ズボンを履くシーン(2枚目の写真、矢印は3枚のパンツ)〔失禁時の漏れ防止だが、いつも3枚では足りない。テープで留めるだけの大人用の紙おむつが開発されるのは1983年、赤ちゃん用の紙おむつでは小さ過ぎる〕。一家6人のうち、母、兄、2人の姉妹は、キリスト教の「ドゥ・プロセッシ(De processie)」というベルギーで盛んに行われている “行列して町をゆっくりと歩き、最後は教会に行く行事” に参加し、父は、パブでエディ・メルクスのTV応援に。フレディは、家から出ると失禁の可能性があるので、屋根裏部屋に閉じ込もり、母がミルクを階段の最上まで置きに行く(3枚目の写真、矢印はコップ)。

そして、家族5人が店の外に出る。店の前では、もう行進が始まっている(1枚目の写真)。行進に加わる予定だった兄は、父に誘われてメルクスの応援に行ってしまい、母と2人の娘だけが行進に加わり、歩いては立ち止るをくり返しながら ゆっくりと進んで行く。フレディは真っ暗な室内に差し込む僅かな太陽の光の元で、黒い布に、白い絵の具で「MOLTENI」と書いている〔有名なイタリアの自転車ウェアは、胸の部分に黒いモルテニの文字が入っている〕。その頃、母達は、歌いながら教会の中に入って行く。そして、いよいよレースがスタート。フレディの屋根裏部屋には、天井の梁から自転車がロープで吊ってあり、そこにフレディが乗り、全力で漕ぐ(2枚目の写真)。パブでは、父と兄を含む大勢の男達が、TVのメルクスに声援を送る(3枚目の写真)。そして、タイトル『Allez, Eddy!』が表示される〔この段階では、「Eddy」はエディ・メルクスしかいないので、メルクスを応援しているのかと誤解してしまう〕

そして、映画は、地震の予兆を思わせる、コップに残ったミルクの振動から始まる。フレディの部屋のいろいろなものが、震度3程度の揺れで動き出し、怖くなったフレディは1階に入りていく。1階の肉屋の店に集まった家族は、そのはた迷惑な振動が、巨大なトラックが無理に舗石道路を通って行ったことに起因していることに気付き、トラックを睨みつける(1枚目の写真)。トラックの横には、「Magique」の大きな文字が。フランス語のマジックだが、この場合は、「魔法の」ではなく、「驚異の」という意味の店名。もれを見た父は、「スーパーマーケットだな」と言う〔「Open Edition Journals」によれば、食品と非食品を販売する面積2500㎡以上のサセフサービス店舗であるハイパーマーケットは、ヨーロッパでは1963年にフランスから始まったというのが通説。しかし、実際には、1961年にベルギーにオープンしたスーパーバザールの3店舗が発祥だと書かれている。映画では、フランスのマジックというチェーン店が、フレディの住む田舎町にもやってきたことで町が大きく変わる〕。それを聞いたフレディは、初めて聞いた言葉なので、「スーパーマーケット?」と訊き返す。「ああ、奴らは、1つ屋根の下で、何でも売るんだ。肉、魚、野菜、靴。すべてを1つの店で」。姉が 「競走用自転車も売るそうよ」と言うと、父は 「誰も、そんなトコで買いたがらん」と否定するが、フレディは 「僕、おっきな店 見てみたいな。チラとだっていい。何か面白そう」と逆の意見。それを聞いた父は、「とんだこと言う奴は、部屋に戻れ」と怒る。母にベッドまで連れて来られたフレディは、「スーパーマーケットは、どうしてそんなに悪いものなの?」と訊く(2枚目の写真)。母は、それには答えず、すぐに横にならせ、さっさと出て行く。この時、母は階段を上がって行くので、この屋根裏部屋には、2通りの入口があることになる。1階から梯子で登るか、隣接する建物の3階にある屋根裏から降りてくるかの2通りだ。このロケ地はブリュッセルの都心から約40キロ西にあるローゼベーケ(Rozebeke)という小さな町。グーグル・ストリートビューの写真を3枚目の示す(矢印がフレディの部屋の窓)。このあと、フレディは、この窓から出て、斜めになった屋根を登り反対側を見る。その時、登り切った時の、顔を映した映像の背後に教会が写っているが(4枚目の写真)、この教会は、3枚目の写真の左側にあるカトリック教会(壁の石や窓の形も同じ)。だから、4枚目の映像は、本当に、屋根の上まで登って撮影されたものだ。フレディは、屋根の上から反対側の野原の方を見ると、遠くの方にス-パーマーケットの建物が見える(5枚目の写真)。

翌朝、父の姉のマリエット伯母が、フォルクスワーゲン・カルマンギア・タイプ1(1955-75)でやって来る。飛び出て行った2人の姉妹に抱き着いた伯母は、ボンネットを開け、中に入っているプレゼントを見せる(1枚目の写真)〔リアエンジン〕。陽気で明るい伯母は、戸口に出て来た白いセーターを着た義妹〔フレディの母〕を見て、「修道女になったの?」と冗談を飛ばす。肉をさばいている弟〔フレディの父〕を見ると、「誰かと思ったら、弟じゃないの。エプロンなんか取りなさいよ。今日は日曜よ」と、また一言。窓から到着を見ていたフレディは、階段を駆け下りてくる。そして、伯母さんに抱き着く(2枚目の写真)。この時、フレディは、後で屋根裏まで来てくれるよう頼む。伯母は、義妹の2人の女の子に女性服のカタログを見せ、その中の服を買えるようにお金まで義妹に渡す。父はお金の受け取りを面子の点から拒否して姉にお金を突き返すが、伯母は弟の変なプライドを批判し、彼が出て行くと義妹にお金を渡し、彼女はありがたく頂戴する〔家計は、父が威張るほど豊かではない〕。そのあと、伯母は、約束通りフレディの部屋に行く。そして、天井から吊ってある自転車にびっくりする(3枚目の写真)。そして、「エディ・メルクスと同じくらい上手に違いないわね」と言い、フレディは、「そうだよ」と答える。

そこで、さっそく持って来たプレゼントを渡す。最初に見せたのは帽子。そこには、フレディが好きなモルテニの文字が一杯書かれていて、さっそく、ツバを上に上げて、裏側のモルテニが見えるようにする〔表側にもモルテニの文字がある〕。そして、次に渡したのが、「FREDDY」の文字が入ったネックレス。伯母は、さっそくネックレスをフレディの首に掛ける。そして、「とっても カッコいいわ」と褒める(1枚目の写真)。フレディは、姉達が伯母の家に行くので、自分も行きたいと言い出し、伯母がOKすると、「ママに訊いてもらえる?」と頼む。優しい伯母は、フレディにキスして 「すぐ、訊いてみるわ」と言って、部屋を出て行く。フレディは、ネックレスを外すと(2枚目の写真)、FとRの文字を外し(黄色の下線)、エディ・メルクスみたいになろうと、「EDDY」だけにする。そして、それを首に掛け直して、鏡で見てみる(3枚目の写真、矢印)〔ネックレスの文字はEDDY〕。ここまで来て、映画のタイトルの『Allez, Eddy!』の対象が、Eddyのネックレスを付けたフレディだと分かる。伯母は、フレディとの約束を忘れて、そのまま彼女が住む都会に帰ってしまう〔そこには既にスーパーマーケットあり、彼女には何の抵抗もない〕

翌朝、フレディは、トイレに行くと言って、母の目を逃れると、次に店の様子を見る(1枚目の写真)。店の常連客が、「世の中 変わり始めたわ」と言って出て行くと、スーパーマーケットに反対の父は、「あなたは 間違えてますよ」と店を出て後ろから声を掛ける。それを屋根裏部屋の下の出口から見ていたフレディは、父が店に入るのを確かめ(2枚目の写真)、走って飛び出し、野原を走り、スーパーマーケットの前まで行く(3枚目の写真)。

スーパーは、まだ開店準備中。入口には、「あなたの新しい生活が始まるまで あと4日!」と貼り紙がしてある。フレディが、店の左のショーウィンドウに飾ってあったモルテニのウェアを着たマネキンと、エディ・メルクスのポスターを見ていると(優勝カップも置いてある)、店長の娘が声を掛ける。彼女は、フランス語圏のベルギー人なので、フラマン語がうまく話せない。「えーと、運転手… 競技会」と言い、横にいた父に、フランス語で、「パパ、フラマン語でサイクリストのこと何て言うの?」と訊き、“wielrijder” だと教えてもらう。しかし、その単語を使ってもフレディには通じない。そこで、「エディ・メルクスのようなサイクリスト」と言い、“coureur(自転車競技者)” という単語(フランス語でも同じ意味)を訊き出す。「なんだ、フランス語と同じね。参加する?」。フレディの横の立て看板には、エディ・メルクスの写真とともに、「参加してヒーローに会おう!」と書かれている。「大会に? ううん。僕、1人で外出できないんだ」(1枚目の写真)。「優勝したら、ルーベ〔ベルギー国境に近いフランスの町/ロケ地の西南西約45キロ〕まで行って、エディ・メルクスに会える」。「ホント?」。「本当よ」。そう言うと、彼女は、1枚の紙を渡し、フレディの名前と、両親のどちらかの署名をもらうよう説明し、さらに、登録の最終は、今日の12時なので、あと1時間しかないと言う。フレディは走って家に戻り、店の壁に飾ってある父の署名入り写真の額をこっそり外すと、すぐ横の冷凍庫に入り、名前の欄に、氏は本当の「Dermul」、名は「Freddy」ではなく「Eddy」と書き込み、父の署名欄には、額のサインを真似て 書き入れる(2枚目の写真)。その時、店に 「攻撃的フラマン」と名乗るグループが入って来て、目的は、新しいスーパーマーケットに対するレジスタンス、要望は、息子の1人のグループへの参加だと言うが、危機感のない父から追い払われる。そして、冷凍庫を覗くとフレディがいたのでびっくりして部屋に戻るよう命じる(3枚目の写真)。

フレディは全速でスーパーまで走るが、受付けにいた店長に、「遅すぎた」と言われてしまう。「遅すぎ?」。「受付けはもう閉まった」。「だけど、僕、エディ・メルクス級だよ」。「エディ・メルクスはいつも1番に来るが、君は5分遅刻だ」。そこに、最初に勧誘した店長の娘が現われ、父親に、「まだ、5分あるわ。例外を認めたっていいでしょ」と、フレディを援護する。娘に甘い父親は 悲しそうに去って行くフレディを呼び寄せ、「娘の時計では12時5分前だそうだ。君はラッキーだな」と言い、「本当に、エディ・メルクスくらい上手いのか?」と訊く(1枚目の写真)。「はい、ホントです」(2枚目の写真)「勝って、彼に会います」。「勝ったら、ルーベに行ける」。フレディは、最初に娘から聞いたことを覚えてないらしく、「ルーベ?」と驚く。「ここに、来るんじゃないの?」。「エディ・メルクスが、こんな所までか? まさか。勝者は、彼に会いにルーベまで行くんだ。彼がメダルを渡し、一緒に写真に入ってくれる」。そこに、インスタントカメラを持った娘が来て、「フロマージュ〔チーズ〕」と言って顔写真を撮ろうとしたので、フレディは、慌てて両手を出して顔を隠す(3枚目の写真、矢印はカメラ)〔誰かにバレたら、レースに参加できなくなる〕

そのすぐ直後、フレディの父の肉屋に、養豚業者が豚を一頭持って来る(1枚目の写真)〔客の入口と同じ場所から入れるのは、あまり衛生的とは言えない〕。父は、隣の作業場に豚を入れると、バッドで殴り殺す。そして、業者が要求した418フランを支払おうと思ってレジを開けると、中に入っていたのは、僅か数枚の小額紙幣。それを渡して、「残りはまとめて請求書に。次は全額支払うから。約束するよ」と言うが、相手は、「あんたは、1000フラン以上未払金があり、スーパーマーケットが来ると…」と、不安を口にする。「誰が、あんなトコに行くもんか」。「どうかな。次は全額払って下さいよ」。「ありがとう」。その夜、父は、妻に、レジにお金がほとんどなかったことを打ち明ける。それに対し、呑気な妻は、娘達にはパーティのためにドレスが要ると言う。さらに、養豚業者に1000フラン以上借金があると打ち明けると、「解決策は1つしかないわ。あなたのお姉さん」と、夫が絶対に飲めない案を持ち出す。同じ頃、フレディは、レースに供えて空中自転車で猛練習(2枚目の写真)。そして、次の日、店では、いつもの客に、いつもの商品を出すと、「今日は要らないよ」と言い、前払い金を返済させられる。それを見ていた “前に「世の中 変わり始めたわ」と言った常連客” は、「みんなは、スーパーマーケットが開店するまで、買い控えてるのよ」と、実情を教える(3枚目の写真)。「彼は、違いますよ」。「彼が最初で、みんな続くわ。世の中、動いてるの。住民も一緒にね。だから、あなたも、それを感じなきゃいけないわ」。それを聞いたフレディの父は、大きい方の息子のブリーク〔フレディの兄〕を連れて店の外に出ると、攻撃的フラマン隊のボスを呼び止め、ブリークを隊員に加えるよう頼む。

レースの前日、フレディは、いつも通りこっそり家を抜け出すと、スーパーマーケットの前に停まっているトラックの所まで駆けて行く。そこでは、レースの参加者に、途中で道行く人々に配布するチラシを渡して、順番にトラックに乗せている(1枚目の写真)〔トラックは、レースのコースを一周する〕。最後にトラックの荷台に乗り込んだフレディの隣に座ったのは、店長の娘。フレディが、「今日は、マジック」と、店名で呼ぶと、「マリー」と名前を教える。そこで、「今日は、マリー」と言い直す。肉屋の近くに来たトラックは、「ここで右折し、すぐ左折します」とスピーカーを使って荷台の子供達にコースを教えるので、フレディの父は何事かと思って見ている(2枚目の写真、矢印)。荷台に乗っていたフレディは、父の姿を認めると、荷台の側面に縮こまって顔が見えないようにする(3枚目の写真)。中に乗っていた子の1人は、フレディの父めがけて、スーパーの開店日を書いたチラシを投げつける。怒った父は、肉片を投げ返し、「どこか他でレースをやれ!」と怒鳴る。

トラックがスーパーの前まで戻って来た時、ちょうど攻撃的フラマン隊がやって来る。そこで、トラックを下りたフレディは、トラックの運転席の側に隠れ、顔をあわせないようにする(1枚目の写真、左の矢印はフレディ、右の矢印は攻撃的フラマン隊の一部)。このすぐあと、攻撃的フラマン隊と参加したばかりのブリークは、掲示板に貼り付けてあるレース参加者の写真を見る。兄のブリークが注意を惹かれたのは、顔を隠した少年の写真(2枚目の写真、矢印)。全体の感じが弟のフレディにそっくりだったから。その日の夕食の話題は、結婚25周年のパーティで何を出すか。父は多めに言い、母は多過ぎると反対する。そこに、ブリークが、支給された隊の制服を持って帰ってくる。そして、隣に座っているフレディに、「お前、マジックのレースに出るエディか?」と詰問する。「レースって?」。「出るのか?」。「何に?」。「レースだ!」。「ううん!」。その会話は、母が、「ブリーク!」と叱って止めさせる。翌日、フレディはスーパーまで走って行き、掲示板から自分の写真を剥ぎ取る。マリーが、「なぜ、写真取ったの?」と訊くと、「出られないから」と言い、そのせいか、急にお腹が痛くなる(3枚目の写真)。今にも漏らしそうなので、フレディは家まで走って戻るが、その次のシーンでは、映画の冒頭と同じようにバスタブに入っているので、途中で漏らしたのであろう。

レースのスタート時間が迫ってくるが、母は、屋根裏への梯子を ミルクを持って登って来ると、「私たちは、スーパーマーケットに抗議に行くから、ここにいなさい」とフレディに命じる。父は、店の前で、タダで試食用の肉を通行人に食べさせている。母と2人の姉は、攻撃的フラマン隊と一緒に、スーパーに向かって歩いて行く。窓からそれを見ていたフレディは、マリーが自転車で呼びに来たのに気付くと(1枚目の写真、矢印)、急いで降りて行き、店から外に出ようとして父に捕まり、試食用の肉のトレイを渡されて、「すべて半額」と叫ぶよう命じられる。外に出てきたフレディに、マリーは、レース開始まで10分だと急かせる。フレディは、道の角で待っているよう頼むと、父には、腹痛のフリをし(2枚目の写真)、トイレに行かされると、そのまま部屋まで走って行き、自転車を持って階段の方から降りて来て(3枚目の写真)、屋根裏部屋の下の出口から自転車に乗って出て行くと、親切なマリーに合流する。

スタート間際。スタート地点に、攻撃的フラマン隊や、フレディの母を含めた個人商店の反対派がやってきて、気勢を上げる(1枚目の写真、矢印は姉と母、その左の隊の最後尾に兄)。お陰で、スタート地点の脇に設けられた仮設テントは、主催者や町長、それに警官隊と、反対派が混じり合って大混乱。フレディの父の肉屋の前では、父がレースを妨害しようと、解体した豚の半身を持ち出してきて、混乱が起きている。スタート地点では、店長がライフル銃を持って現れたので、反対派は逃げ惑う。店長は、「銃はレース用です」と言って、周りを落ち着かせる。マリーと一緒に会場まで間に合って到着したフレディは、始終顔を伏せて、気付かれないようにしている(2枚目の写真)。マリーがフレディに選手の番号(37番)を付けると、すぐに銃が鳴り、レースは混乱の中で開始される。フレディは、誰にも見つからずに、スタート地点を最後尾で通過。途中でどんどん順位を上げるが、トップで肉屋の前まで来た時、父の豚が巻き起こした騒動を止まって見てしまい、どんどん追い抜かれる。そこで、再スタートし、馬力をかけて力走。野道を走って舗装道路に出る所で、戻って来た母と2人の姉とすれ違う。その時、母に気付かれてしまう(3枚目の写真、矢印)。

その後、スピードを上げたフレディは、ゴール直前でトップの選手と並び、最後は写真判定。そして、車輪半分の差で、37番の勝利が確定。店長は、37番が優勝し、ルーベでエディ・メルクスに会うと高らかに宣言する。マリーはフレディに軽く抱き着き、「優勝ね」と称える(1枚目の写真)。店長が、「ステージに上がって」とマイクで言うと〔横には、優勝カップを持った町長がいる〕、フレディは逃げ出す(2枚目の写真、矢印)。店長は、不始末を好転させようと、「我らが勝者は、恥ずかしがり屋なのでステージに上がれません。皆さん、それは偉大なチャンピオンのしるしです」と、37番を称える。映画は、全力で逃げるフレディを映す(3枚目の写真)。

大急ぎで家に戻ったフレディは、自転車を持ち上げて階段を上がろうとして、母から声を掛けられる。「どこにいたの?」。「どこにも」。「どこにも?」。「パパを探してた」(1枚目の写真)。「自転車で? よく そんな嘘が付けるわね。私が あんたを見なかったと思うの?! 37番!」。「だけど、勝ったよ、ママ」。「そうでしょうよ!」。フレディは、がっかりして自転車を持って屋根裏へ。夕食のテーブルは、沈黙が支配している。そこに、辛そうな顔のフレディがやってきて座る。母が一瞬睨む。父は、厳しい顔のまま、フレディを見ようともしない。その時、制服のまま入って来た兄が、優勝時の判定写真を、フレディが食べている皿の中に叩き入れ(2枚目の写真、2つの矢印は僅差の勝利を示す)、「何のつもりだ」と言って、フレディを小突く。それを見た母は、「ブリーク!」と兄を制止する。「こいつ、レースに参加したんだ」。「知ってるわ。父さんも知ってるわ」。兄は渋々フレディと父の間の席に座る。フレディは、父に向かって、「僕、勝ったよ、パパ。エディ・メルクスに会いに行くんだ」と言うが、父は、「お前は、誰にも会いに行かん。店でブリークの代わりをやれ」(3枚目の写真)「週7日。昼も夜も。分かったか?!」と怒鳴ると、席を立つ。

それからのフレディは、白衣を着て豚肉との格闘が続く(1枚目の写真)。マリエット伯母が来ても、連れて行ってもらえるのは、母と2人の姉だけ。2人だけで食事中に、店にスーパーの店長がやって来て、父が顔を出すと、「あなたの息子さんは、優勝カップを持って行くのを忘れました。ルーベへの招待状も一緒に持って来ました」と言う。父は 「出て行け」と、出口を指す。そんな失礼なことを言われても、店長は、「でも、あなたの息子さんはレースに勝ったのです。エディ・メルクスに会えるんですよ」と言いながら、優勝カップを手に持ち、「あなたの息子さんには才能があります。参加させて下さい」と言って、優勝カップを差し出す(2枚目の写真)。フレディは、「参加させてよ。エディ・メルクスに会わせてよ」と父に頼むが、自分の仕事を奪うスーパーマーケットを許せない父は、持っていた大型包丁を振るって 優勝カップのキャップを跳ね飛ばす。怖くなった店長は、優勝カップの下半分を床に置くと、逃げ出していく。父は、自分を睨んでいるフレディーを見ると、「何だ、その目付きは?」と文句を言う。屋根裏に行ったフレディーは、床に置いてあった物を蹴散らして、怒りを爆発させる。次のシーンでは、父に、無理矢理 肉の切り方を教えられている最中に、指を少し切ってしまい、思わず包丁を床に落とす。大事な包丁を粗末に扱ったことを叱る父に対し、フレディは、「血が出てる!」。「それがどうした?」。「こんな肉屋、大嫌いだ!」。「慣れるんだ。お前は、ずっとここにいるんだから」。「いるもんか!」。「サイクリストにでもなるつもりか?」。「大嫌いだ!!」(3枚目の写真)。「俺も、大嫌いだ! この裏切り者! 家族全員に恥をかかせやがって! この恥知らず! 肉屋になれることを喜ばんか!」。「伯母さんと一緒に、都会に住む!」。父は、フレディの頭を叩く。

そこに、養豚業者が入って来て、フレディに 「やったな。素敵なレースだったぞ」と声をかけ、父が言った “恥” 云々を打ち消してくれたが、肝心の豚は持って来なかった。業者は 父を外に連れ出すと、今後は マジックだけに豚を納めることにしたので、父には売らないと言う。それでは、店をやっていけなくなるので、父は 「そんなことできないだろ。なんで? そんなに借金があったか? 買値を上げろとでも? スーパーは幾らで買ってくれる?」と必死になって 取り引きの継続を要望するが、業者は、「そういうことじゃない」(1枚目の写真、矢印は業者)「あんたも目を開けるんだ! 世の中は変わった。みんなも変わらないと」と言うと、父の必死の願いを無視して車を出してしまう。店に戻った父は、包丁を肉塊に何度も切り付けて怒りを爆発させる。そのうちに、手を切ってしまい、販売用の肉が切れなくなったのでフレディに切らせ、暇になったので店から外に出て行きスーパーの買い物袋を手にした常連客に 「裏切者! 協力(スーパーへの)者!」と怒鳴ったり、スーパーでもらった風船を持った少女の風船を割ったりする。そうした愚かな行為を見ていると、フレディは腹痛を起こす。しかし、助けてくれる母はいない。父に、「助けて」と頼んでも断られ(2枚目の写真)、フレディは、糞で汚れたズボンを自分で洗う(3枚目の写真)。その頃、店では 売れ残った肉の中から蛆虫が見つかり〔夏なのに、冷却されたショーケースの中に入っていなければ肉はすぐ傷む〕、父は、くず入れに捨てる。そこに母が帰って来て、フレディが 父が何もしてくれなかったので、自分でズボンを洗ったと言うと、夫のことを 「悪い人ね」と言い、伯母さんの家には洗濯機があるとも言う〔糞で汚れたズボンを洗濯機で洗う?〕

家に入って来た姉に、時代についていけないフレディの父は、悩みを打ち明ける。「仕入れ業者はスーパーにしか売らなくなった。顧客はスーパーで買い物をし、息子はスーパーのレースに出た」。「スーパーと話したら?」。「何を? 俺はアンドレ・デルミュール、父と祖父が苦労して作り上げた肉屋を破産させた男だってか?」。「祖先の話はやめなさいよ。もう死んで墓に入ってるのよ」(1枚目の写真)。「父さんの最後の言葉を忘れたのか?」。「『お前の将来は、パパや祖父ちゃんや曽祖父ちゃんと同じだ。肉屋を引き継げ』でしょ。そんなの、重荷だと思わない? 父親から息子へと受け継がれた重荷よ」。それでも、“デルミュールと息子たち” から肉屋を奪ったら何も残らないと言い張る弟に、姉は 「もし、私が息子として生まれてても、私なら跡なんか継がない。人生は1回限りで 命は短いのよ」と言って、出て行く。夜になり、寝室で、新調のドレスを着た妻は、嬉しそうに、「どう? マリエットからのプレゼントよ」と言う。「高級店でか?」。「ううん、カタログよ。彼女の家に届けられたの。カタログだと、どこにでも届けてくれるのよ。何でも宅配。便利よ」(2枚目の写真)。この言葉にヒントを得た父は、翌朝、フレディを呼び起こすと、自転車を持って下りてくるよう命じる。店では、父が、電話で 「子牛肉の切り身4枚と半ポンドのタルタルステーキですね。私どものヒーローが、15分でドアまでお届けします」 と話している〔大きな疑問は、父は、どうやって、このようなサービスを始めたことを、こんなに早く住民に伝えたのだろう、という点〕。フレディが服を着て下りて来ると、父は、これから都会でやっているような宅配を始めると言い、自転車に荷台を置き、その中に注文を受けた3つの包装を入れる。フレディが、「僕、1人で外に出ちゃいけないと思ってた」と言うと、勝手な父は、「もし、お前と俺とでスーパーマーケットをやっつけられたら、ママはお前を誇りに思うぞ」とおだてる。「ホントに?」。「そうしたいんだろ?」。「うん」(3枚目の写真)。

フレディは、さっそく配達に出発(1枚目の写真、矢印)。最初の家では、出て来た奥さんが笑顔で迎え、次の配達先は食堂。そして、最後の家まで行ってノックすると、背後の庭から 「今日は、ちっちゃなエディ・メルクス」という声が掛かる。フレディが振りむくと、そこには、ガーデン デッキチェアに横になった全裸の若い女性がいたので、フレディはすぐに視線を外す。そんな態度が、素朴で可愛かったので、女性は 「こっちに来て」と呼び、品物を受け取ると(2枚目の写真、矢印)、お金を渡し、最後は 「素敵なTシャツね」と言ってくれるが、フレディは逃げるように立ち去る。配達を終えたフレディはお金を父に渡す。母は 「どこに行ってたの?」と訊き、フレディは 「お客の家だよ」と答える。フレディの体が心配な母に対し、父はフレディの背後に回ると、妻を見ながら、「俺たち2人は、肉屋を救おうとしてるよな、フレディ?」と、息子に訊き、フレディは頷く。しかし、母は、「宅配するなら、他の子を見つけなさいな」と夫に言い、フレディには部屋に行くよう命じるが、フレディは 「自分で何とかできるよ。ママがいない間、僕一人で何もかもやったから」と反論する。母は、それでも反対するが、父は、2つの注文品をフレディに渡して配達に行かせる。

その2軒目、父も知らなかった家のドアの前には、見覚えのある自転車が停めてある。呼び鈴を鳴らすと、出て来たのはマリー。「今日は、サイクリスト」。フレディは、「今日は、マリー。ここに住んでるの?」と言って、品物を渡し、「6.2フランです」と支払いを求める。マリーは、フレディの帽子にもTシャツにもモルテニがいっぱいあるのを指摘し、包みを開けて(1枚目の写真)、中身を少し口に入れる。そして、「マジックのよりおいしいわ」と言ってくれる。そして、品物を置きに行き、お金を持って来ると、「一緒に行ってもいい?」と訊く。「追いつけないよ」。麦畑の中を走るフレディに、マリーは 「もっとゆっくり!」と叫ぶ。フレディは、自転車から降りて麦畑に横になる。その横にマリーが並んで座ったので、フレディは体を起こす。マリーは、鼓動の激しい胸を押さえて 「私の心臓」と言うと、フレディの手を取って胸に押し当て、「感じられる?」と訊く。何となく恥ずかしいので、フレディが手を放すと、マリーはもう一度手を取り 「ちゃんと感じて」と言う(2枚目の写真)。そして、「数日後、ルーベでエディ・メルクスに会いましょ」と笑顔で言う。「僕、行くの許されてないんだ」。「来るのよ。あなたのパパに言うわ」。「言っちゃダメだよ」。「言っちゃうわよ」。「ダメ」。「言うわ」。2人は自転車で家まで来ると、そこで手をパチンと合わせて別れる。それを窓から見ていた父は、息子にガールフレンドができたと思ってニコニコする。そして、フレディが売り上げ金を渡すと、フレディの服にいっぱい付いている黒いものを見て、「それ、何だ?」と訊く。そして、1つ取って 「草か?」と訊く。「転んだから」。「転んだ? 誰と?」。「マリーと」。「マリー? マリーって誰?」。「スーパーマーケットの」。それを聞いた父は態度を急変させ、「二度とそこには行くな」と言う。「パパが行かせた」。「何だと?」。「宅配に」(3枚目の写真)。「マリーと草むらで転がったのも、俺が言ったからか?」。「僕が転んだ」。「さぞや、痛かったろうな」。2人は かくして喧嘩別れ。父と、3人の女性だけの夕食。最初に一口食べた長女が、思わず吐き出し、「この肉、変な味がするわ」と指摘する。父が食べた方の肉は普通の味だったが、母も吐き出す。肉を調べに行った父が見たものは、以前見た時の10倍もいる蛆虫〔こんな物を、放置して食べさせた父は、肉屋として完全に失格だ〕

翌日、フレディは1ヶ所だけの配達を頼まれた帰り、スーパーまで行き、ショーウィンドウに置いてあるカラーTVでツール・ド・フランスの様子を見ている。一方、暇な父は、パブでの応援のため、肉屋を閉めて見に行くが、そこのTVは白黒。フレディが見ていると、マリーが店内から出て来て、「ルーベの練習をしないと。店の周りを一周いて」と言う〔ルーベでも何かのレースがある〕。マリーはストップウォッチを持っていて、1周する時間を計測する。1周目が1分12秒(1枚目の写真)、2周目は58秒、3周目は55秒。しかし、5周目(?)を終えた所で、フレディの下腹が急に痛くなり、苦しみ出す(2枚目の写真)。マリーは、フレディのスボンが汚れているのに気付く。フレディは、恥ずかしいので逃げるように、家に向かって自転車を漕ぐ(3枚目の写真)。

その途中で、不運なことに、攻撃的フラマン隊のチンピラどもと遭遇する。そして、後ろに回った隊員の一人が、フレディの “お漏らし” を指摘して(1枚目の写真)、全員が笑う。隊長は、兄のブリークに、「お前の家族は、いったい何なんだ? 協力者か? お漏らし屋か?」。ブルークは、その批判を打ち消そうと、フレディを押し倒す。すると、他の隊員が、レディの大事な自転車を投げて蹴飛ばす。怒ったフレディが、その隊員に飛びかかり、フレディは2人の隊員に髪をつかまれて殴られる。倒れたフレディを足で蹴った卑怯者を見て、遂にブリークも “自分が兄” であることに気付き、蹴った相手に飛び掛かる。8人の不良による、ブリークとフレディに対する一方的な攻撃が始まる(2枚目の写真)。映像はここで終わり、傷だらけのフレディが ブリークに抱かれて家に戻ってくる(3枚目の写真)。フレディが母に抱かれて連れ去られた後、ブリークは、「パパ、僕、攻撃を止められなかった」と告白し、頬を殴られる。母は フレディをバスタブに立たせ、顔に付いた血をきれいにする。

翌日、ブリークが現われなかったと文句を言いに来た恥知らずの攻撃的フラマン隊の隊長に、怒った父は掴みかかる。しかし、そこにやって来たブリークは父を止め、配布された制服を静かに隊長に返す〔なぜ? 弟があんな目に遭ったのに?〕。隊長と残りの隊員は店から出て行くと、本性を剥き出しにして、石をショーウィンドウに投げつけて割り、逃げて行く。翌日、割れたショーウィンドウに板を打ち付けていると、そこにマリーが入って来て、「エディ〔フレディ〕のために、ルーベで撮ったエディ〔メルクス〕の写真」と言って、1枚の写真をフレディの父に渡す(1枚目の写真、矢印)〔マリーは、フレディの名前がエディだと思っている〕。「エディのため?」。「あなたの息子」。「ああそう。ありがとう」。マリーが出て行こうとすると、父は呼び止めて、「あなたのパパは、今夜 スーパーマーケットにみえるかな?」と訊く。「夜に?」。父は頷く。そして、夜になると、父は、こっそり家を出て行き、スーパーに向かう。そして、店長室に入って行くと、「私は成功した肉屋です。豊富な経験があるので、あなたを助けることができます」と言い、心の広い店長も、以前の父の暴言は忘れ、「あなたのタルタルステーキはとても美味しいと聞いてます」と、笑顔で答える(2枚目の写真)。「4世代が生んだ高品質です」。「で、ご提案は?」。「一致協力です」。それを聞いた店長は、嬉しそうに笑うと、引き出しから乾杯用のグラスを2個取り出す」。そこで、一晩2人で過ごしたのか、父の帰宅は翌朝。今まで見られなかった最高のご機嫌で、「いいか、みんなよく聞くんだぞ。パパからの重大ニュースだ。デルミュールの肉屋は、スーパーマーケットの一翼を担う」と発表する(3枚目の写真)。

父は、そのあと屋根裏部屋に行き、フレディに、マリーが持って来た写真を渡す。それを見ながらベッドに座ったフレディの横に、父も座る。そして、新しくできるエディ・メルクス・チームに入らないかと尋ねる。「それ何?」。「パパは、スーパーで働くことになった。お前みたいに才能のある少年たちからなる新しいチームへの入団テストのリストに、スーパーのマジック経由で名前を入れることができる。エディ・メルクスがチームを後援してくれる」。「でも、僕、あれがあるから… 無理だよ」。「誰だって、何らかの問題を抱えてる。怖いからといって、一生、この部屋で過ごすことなんかできないぞ」。「僕、肉屋になるよ」。「お前なら、一流のサイクリストになれるぞ」(1枚目の写真)。父が出ていったあとで、マリーが持って来た写真を見る。そこには、エディ・メルクスが、マリーと一緒に写っている。フレディは、その横に、自分が写っている姿を空想する。そして、急にやる気になったフレディは、愚連隊に壊された自転車を元通りに修理する(2枚目の写真)。そして、「EDDY」のネックレスを 「FREDDY」に戻して(3枚目の写真)、首に掛け直す。

その頃、教会では、父と母の結婚25周年にあたって、以後の長く結婚生活が続くように祈る儀式が行われている(1枚目の写真)。そして、終わった後は、店の外の路上で盛大なパーティ。そこに、スーパーの店長もマリーを連れて現れる(2枚目の写真)。マリーは、3階の屋根裏まで上ってから、「今晩は、エディ」と声をかけ、フレディの部屋に下りてくる。フレディは、マリーが好きなので、恥ずかしそうにしている。マリーは、ネックレスを見て、「フレディ? エディじゃないの?」と訊く。「今は、フレディだよ」。マリーは、「フレディに」と言って、きれいな包み紙を渡す。中に入っていたのは、フレディがあれほど欲しがっていたモルテニの正規のTシャツ。感激したフレディは、胸のドキドキを感じてもらおうと、マリーの手を自分の胸に当て、「僕の心臓、感じて」と言う(3枚目の写真)。マリーが、「ブンブン」と言うと、フレディは、感謝を込めてマリーの頬にキスする。

モルテニのTシャツを着たフレディが、マリーと一緒に路上のパーティに出て行く(1枚目の写真)。それを見た父は、フレディをイスに上がらせ、「フレディ、言いたいことがある。私は、お前がレースに勝ったことに、まだおめでとうと言ってなかった。そうすべきだった。だから、おめでとう」と言うと、優勝カップを渡し、「よくやった」と褒める。一斉に拍手が起きる。父は、今度は、パーティ参加者に向かって、「それだけではありません。フレディはとても才能があるので、何と、エディ・メルクスの少年チームへの入団テストに招待されました」と自慢する(2枚目の写真)。さらに拍手が起きる。母は 「この子は、それをしないことに決めました」と勝手な発言をするが、父は 「彼は、自分で決められる年になっています」と、妻の妨害を止め、それを聞いたフレディは、「パパ、僕 やりたい」と言い、母に対しては、「もう昔の僕じゃない」(3枚目の写真)「僕、試してみたいんだ」と言う。父は 「誇りに思うぞ」を讃える。

翌日、もしくは、数日後、きちんとした服装をしたフレディが、ベッドに寝間着姿で座っている母に、「僕、入団テストに行ってくるね」と言うが、それに反対の母は、僅かに頷いただけで何も言わない。そこに、父が入って来て、「行くぞ、フレディ、バスが来る」と急がせる。2人は、野原の真ん中にポツンと立ったバス停に向かって急ぐ(1枚目の写真)〔なぜ、教会の近くにバス停がないのだろう?/バスの行き先の「HOOGRIJK」は架空の地名〕。2人がバスに乗った時は、誰も客がいなかったのに、途中でどんどん乗って来る。1975年を思わせる光景としては、黒人とベルギー人のカップルが通路を挟んで反対側の座席に座った時、それを変な顔で見たフレディが、できるだけ離れようと窓側に詰めたこと〔当時は、移民に対して差別意識があった?〕。その後で、ヒッピーの2人組が2人と向かい合った席に座った時も、体を引いた。でも、このヒッピーは、手に持っていた白ネズミでフレディを喜ばせた。そして、バスの終点。地図を持った父は、競技場がどこにあるか必死に探すが(3枚目の写真)、バスで見えなかっただけで、道路を挟んで向かい側にあった。

受付けを済ましたフレディは、他の少年達と一緒に、各種の体力テストを受ける。映画で紹介されるのは、縄跳び、腹筋(1枚目の写真)、全速での自転車を漕ぎ(2枚目の写真)、その直後の心拍数の測定(3枚目の写真)。

4人の委員と1人の医師が並んだ最終審査会に出席したフレディと父に対し、委員長は 「君の持久力は素晴らしい」と褒める(1枚目の写真)。そして、「友だちと よくサイクリングするのかね?」と訊く。「一度も」。「一度も?」。「いつも一人です。僕の部屋で」。「すごく大きな部屋に違いない」。ここで、父が 「自転車は宙に浮いてるんです」と説明する。「宙に?」。フレディは 「自転車を2本のロープで天井から吊って、毎日練習してます」と説明する。委員長は、その練習方法に驚きと感心を交えた表情で、父に向かって、「私たちの練習は、寄宿学校で行ってもらいます。クリスマスとイースターの2週間以外は、ずっと寮生活です」と説明し、父は 「彼は、自分の部屋に一人でいることに慣れてますから」と言う。委員長は、これでフレディの合格は既定事実とばかりに、「何か他に我々が知っておくべきことはありますか? 練習に何か問題となるようなことはありますか?」と訊き、父は 「ありません」と答える。しかし、正直なフレディは 「やっぱりあるのかもしれません」と発言する(2枚目の写真)。「僕の頭とお尻の間には配線が欠けていて、連絡が届かないので、時々、良くないことが起きるんです」。「良くないこと?」。「パンツの中」。「パンツを汚すの?」。フレディが悲しそうに頷く。「大きい方? 小さい方?」。「大きい方」。委員長は、父に 「検査したのですか?」と訊く。「はい、ずっと前に」。委員長は、隣の委員に 「それは問題だな」と言い、委員の間でも問題視する意見が相次ぐ。それを受けて、委員長が 「君はとてもいい候補だったが、チームには無理だと思うよ」と発言。フレディはがっかりする。しかし、そこで医師が、「こちらで、もう一度検査を受けてみませんか?」と父に声を掛け、父はもちろん同意する。この新しい希望に、フレディはにっこりする(3枚目の写真)。

そして翌日、同じ会場に、父だけでなく母も現れる。そして、昨日の医師が説明を始めるが、昨日と違い、なぜかフランス語。そこで、委員長が3人に分かるように、フラマン語で通訳する。「腸に障害物(or閉塞)〔obstructie〕があります」(1枚目の写真)「腸が耐えきれなくなると、腸はドンと押し出します」。そして、「その障害物(or閉塞)は除去できますか?」と医師に質問する。医師の返事の通訳。「浣腸〔spoelingen〕で除去〔verwijderd〕できます。それで、腸は正常に機能します」〔非常に曖昧な表現なので理解困難。フラマン語の映画なので、上の台詞では要所のフラマン語を提示した(曖昧さが良く分かる)。障害物(or閉塞)とは何なのか? 浣腸で除去できるような簡単なものなのか? しかし、子供の時からずっと続いているということは、定期的に浣腸が必要ということなのか?〕。委員会はもめるが、委員長が採決を促し、5人のうち4人が賛成し(2枚目の写真)、チームへの参加が認められる。委員長は、「うまくいかない場合、フレディが辛い状況に行き着くかもしれないことを覚悟されておられるなら」と、両親に了解を求める。フレディは、母に 「お願い、ママ」と頼み、母は、息子と父親の両方の顔を何度も見た上で、正面を向いて 「是非とも〔Natuurlijk〕」と笑顔で了承する。委員長は 「これで、フレディは、正式に我々のチームのメンバーになりました」と宣言する(3枚目の写真)。「9月1日に待っています」。

そして、9月1日、マリエット伯母が迎えに来る。父にはスーパーで仕事があるので、家の前でお別れ(1枚目の写真)。フレディは、後部座席から後ろを向いて、見送る父と兄と2人の姉に手を振る〔なぜ、マリーが来ないのだろう?〕。車は、寄宿学校の前に到着(2枚目の写真)。一緒に付いて来た母は、建物の玄関の前で最後の別れの抱擁をする(3枚目の写真)。最後の言葉は 「あなたが誇らしいわ」。

そして、映画は、10年半後の第70回フランダース・ツアー〔1986年4月6日、ベルギーフラマン語圏のシント=ニクラース~メールベーケ間275キロ〕。父だけでなく母も加わったパブでの集団観戦では、TVでエディ・メルクス・チームの新人フレディ・デルミュールが紹介される(1枚目の写真)。アナウンサー:「Langeworp〔架空の地名〕出身の、この才能ある若者が大きな大会に参加するのは、これが初めてです」。そして、選手たちは一斉にスタートする。バブで応援する住民たちは、「行け、フレディ〔Allez, Freddy〕!」と言って応援する。

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